実直なフレンチ シェフと厨房 真心デザート
photo by Muneaki Maeda
実直なフレンチ

ル ゴロワの厨房を仕切るのは、
フランス料理の道を黙々と歩む大塚健一シェフです。
朝の仕込みから閉店後の厨房の片付けまで、
ふだんは言葉少なく手を動かし続けるシェフの、
料理に対する思いや考え方をご紹介します。


お客さまのおいしい顔が見たい

マダムと共にル ゴロワを開業する以前、シェフは大手ホテルのレストランの厨房に立っていました。しかし、大きな組織では料理人であっても上に行くほど管理業務も手がけなければならないようになり、それをきっかけに独立開業しました。自ら厨房に立ち、料理をつくる仕事がしたくてこの道を歩んできた、その思いを貫くためでした。オープンキッチンにすることは、開業以前から思い描いていたシェフのアイディア。自分がつくった料理を召し上がるお客さまの顔が見えるようにしたかったからです。


顔が見える生産者と繋がった“北海道フレンチ”

ル ゴロワは、北海道の生産者約30件と契約を結び交流を深め、ほとんどの食材を航空便で直接仕入れています。野菜、畜産品、魚介、酪農製品、いずれも志を持って仕事にとりくむ、尊敬する生産者ばかりです。彼らの心がこもった食材をお客さまにおいしく味わっていただきたいと願ってつくるのが、ル ゴロワの“北海道フレンチ”です。
良質な食材のおいしさを引き出す料理の難しさは、料理をしすぎないことです。微妙な塩加減や火加減に神経を集中させて、食材が持っている自然の滋味を開かせる、そんなフランス料理をめざします。


基本に忠実 おいしさに自由

ル ゴロワは、フレンチの食材に固執せず、ここで仕入れることができる最良の食材を探して使います。料理によっては醤油や山葵や柚といった日本料理のエッセンスも加えます。ただし、ソースやビネグレットは、飽くまでもフレンチが基本。日本の食材を活かし、旬を取り入れ、日本人の味覚に合ったフランス料理であること。おいしいことには自由な姿勢で挑むのがル ゴロワの“北海道フレンチ”です。
フランス料理は肉や魚介がメインと思われがちですが、ル ゴロワは比率でいえば7対3で野菜が多めです。肉や魚介が少ないのではなく、野菜を多く使っています。だから料理の量はたっぷり。味はしっかり。食べ応えがあって、すっと食べられる軽やかさもある。そんな体にやさしい料理をおなかいっぱい召し上がってください。


お客さまの批評に感謝します

ル ゴロワは、常連のお客さまに支えられています。もともと表参道の裏通りにあった18席だけの小さな店から引っ越したのは、常連のお客さまから席が少なくて予約が取れないと言われたからでした。
料理は定番メニューが中心です。「ル ゴロワ風サラダ」「人参のムース」「鴨のもも肉のコンフィ」などは、ル ゴロワを始めてから10年間、変わることなく続けているメニューです。
いつも来ていただくお客さまに、いつもの料理を食べていただく。これがいちばん緊張します。いつもと変わらない料理を、おいしいと言われるのがこの仕事をしていて一番嬉しいことです。ときには、今日は塩がきつかったね、などと言われることがあります。申し訳ない気持ち、悔しい気持ちになりつつ、正直な感想や批評はありがたいことだと感謝しています。今度来ていただいたときは、必ずおいしいと言っていただける料理をつくります。


シェフについてマダムのコメント

「毎日毎日、黙々と、同じことを、当たり前のようにやっています。愚直という言葉がぴったり。それが、シェフの最大の魅力で、私が一番尊敬するところです。
天候のために食材が思うように入荷しないとき、お店が混んで夜中の2時になってから鍋をピカピカに磨き上げるとき、音を上げたい気持ちもあるのでしょうが、そういうそぶりを見せたことは一度もありません。口べたというか、言葉が少ないシェフですが、不言実行のマイペースぶりのおかげで、まわりは慌てずに仕事ができるのだと思います。
たとえ同じ食材で同じ作り方をしても、料理にはつくる人があらわれます。シンプルな料理はなおさらです。当たり前のことを丁寧に続けることができるから、シェフの料理は輝くのだと思います。飾りの輝きでなく、食そのものの輝きを持つ実直な料理があるから、私たちサービススタッフは、自信を持ってお客さまを迎えられます」




●シェフのプロフィール

大塚健一 おおつか けんいち

1960年長野県軽井沢生まれ。高校卒業後、軽井沢プリンスホテルに入社、19才からフレンチレストランの厨房で12年間つとめる。上京するたびに通いつめた東京・広尾の「プティポワン」の料理に魅了され、修業を申し出て同店で2年間つとめ、その後1994年からは「パパス・カフェ」シェフをつとめる。
1997年にル ゴロワを東京・表参道に開店。2006年に東京・神宮前に移転し、それまで18席だった客席数を29席に増やす。北海道を中心とした食材の生産者とつながりをもって、ル ゴロワ流の「北海道フレンチ」をつくる。


photo by Muneaki Maeda
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photo by Masahiro Sakabe
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